建設業のBCP|AI・DXで停止時の仕事と復旧を準備
工程や図面をクラウドで共有する会社もあるでしょう。では、通信が止まったときの連絡先は決まっていますか。担当者が不在のときの確認方法も必要です。建設業のBCPでは、普段使っているシステムを利用できない場面も含めて、仕事を続ける方法を準備します。
BCPとは、災害や事故などに備えて、重要な業務を続けたり再開したりするための計画です。人の安全を最優先にしたうえで、継続する仕事、代わりの記録方法、復旧後に確かめる内容を決めます。作成した文書を保管するだけでなく、実際に使えるかを確認することが大切です。
AIやDXは、その準備と訓練を助けます。AIには想定場面や確認事項の整理を任せ、権限の変更、復旧の実行、安全判断は責任者が担います。現場を支える事務の仕組みを題材に、日々の工事情報からBCPを具体化していきましょう。
建設業のBCPで、続ける仕事を具体化する
BCPを作るとき、最初から多くの災害や細かな手順を並べると、どこから始めるか決めにくくなります。まずは、業務が止まると誰にどのような影響があるかを考えましょう。
建設会社では、性質の違う業務が同時に動いています。現場の状況確認、協力会社への連絡、図面の参照、支払予定の確認などです。すべてを同じ速さで戻すのではなく、停止による影響から順番を決めます。
全国建設業協会の説明では、BCPは重要な業務の継続や復旧を追求する計画です。目標とする時間までの実施・復旧を目指します。災害時事業継続の手引きを参考にしつつ、自社の現場や取引先に即した内容へ落とし込みます。
例えば「顧客管理を復旧する」と書くだけでは、担当者は動きにくいものです。「緊急の連絡が必要な工事を特定する」「誰が連絡するかを決める」まで分ければ、必要な情報と代わりの方法を考えやすくなります。
認定や審査への対応が必要な場合は、その制度の最新の基準を別途確認します。ここで紹介するのは、日常業務の継続を考えるための整理方法です。特定の認定を取得できることを示すものではありません。
経営者が決めるのは、優先順位と許容できる停止
復旧の順番は、システムの担当者だけに任せず、現場・営業・事務の業務を踏まえて経営者が判断します。連絡、施工記録、受発注、請求などを並べ、それぞれが使えない場合の影響を確認します。
検討したい点は、次のように整理できます。
- その仕事が止まると、顧客や現場にどんな影響が出るか。
- いつまでに、どの程度の状態へ戻す必要があるか。
- どの時点までの記録が使えれば再開できるか。
- 判断する人が不在なら、誰が代わりに決めるか。
「いつまでに戻すか」という目標と、「どの時点のデータまで戻せる必要があるか」は別です。前者だけを決めても、直前の変更が抜けたまま使い始めれば、古い図面や予定に基づいて動いてしまうおそれがあります。
目標の時間やデータの間隔は、会社と業務によって異なります。他社の数値をそのまま採用するより、自社が確認できる範囲から仮の目標を置き、訓練結果を見て調整します。ここでいう仮の目標は社内検討用で、公式の認定基準や復旧保証とは分けます。
支払いを含む業務では、復旧を急ぐ場面でも承認を飛ばさないことが重要です。資金繰り管理で支払予定を整理する方法と結び付け、必要な期日と確認権限を先に把握しておきましょう。
デジタル化した情報の置き場所と、代わりの入口を持つ
情報をクラウドへ集めると、平常時に共有しやすくなります。ただし、そのサービスへ接続できない場合や、ログインする端末を使えない場合にも、必要な情報へたどり着けるかを考える必要があります。
日本建設業連合会の建設BCPガイドライン第5版は、重要なデータや図面の保全を取り上げています。さらに、システムを利用できない間の手入力・紙などの代替手段も示しています。データの保管と仕事の続け方を、組み合わせて考える参考になります。建設BCPガイドライン第5版
例えば、必要な連絡先と現場の一覧を、会社が認めた方法で参照できるようにします。保存した控えには、何月何日時点のものかを付けます。いつ作ったか分からない一覧を「最新版」として配ると、代替手段そのものが混乱の原因になります。
控えを用意することは、全員へ機密情報を配ることではありません。必要な項目、閲覧する人、保管先、更新と廃棄の方法を決めます。パスワードを共通の紙へまとめたり、個人のメールや私物の保存先へ無断でコピーしたりする方法は避けます。
図面では、工事名に加えて、施工に使う版が分かることが重要です。図面の改訂と配布先を管理する方法を普段から整えておけば、控えに何を含めるかを決めやすくなります。

停止中の記録を、復旧後に取りこぼさない
代替の紙やファイルで仕事を続けると、その間に新しい情報が生まれます。システムが戻った後に、これを誰が取り込むかまで決めておきましょう。復旧したという連絡だけで、情報の整合性まで確認されたわけではありません。
次の表は、工事情報を一時的に別の方法で残す場合の運用例です。実際の停止時には、状況と社内の対応方針に沿って判断します。
| 場面 | 残しておくこと | 再開時の確認 |
|---|---|---|
| 顧客から連絡を受けた | 受付時刻、用件、対応担当 | 正式な履歴への反映と対応の重複 |
| 工程の変更が伝わった | 変更元、内容、確認状況 | 最新の予定との違いと承認 |
| 納品を受けた | 工事、品目、受領の記録 | 在庫や発注側の記録との対応 |
| 正式な入力を見合わせた | 保留理由、連絡先、期限 | 再入力が必要か、既に反映済みか |
代替記録には、後で同じものを識別できる番号などを付けます。システムへ反映した後は、反映先と確認者を残します。紙を捨てる、控えを削除するといった扱いは、確認と社内の保存ルールに従って決めます。
再開の条件も具体化します。画面にログインできることと、必要な業務が正しく行えることは異なります。代表的な記録を参照できるか、未反映の変更が残っていないか、担当者が確認したうえで通常運用へ戻します。
サイバー攻撃が疑われる場合は、一般的な操作不良と同じ手順で再接続しないことも大切です。復旧や利用再開の判断は、社内の責任者や支援先の指示に沿って行います。
AIは訓練の下準備と記録整理に使う
AIを活用しやすいのは、平常時の机上訓練です。机上訓練とは、実際の業務や設備を止めずに、想定した状況をもとに対応を確認する方法です。会社が公開してよい範囲の情報や模擬データを使えば、実顧客の情報を入力せずに検討できます。
例えば、「事務所へ行けず、担当者のパソコンも使えない」という条件を置きます。業務の一覧と役割をAIへ渡して、確認したい質問や手順の抜けを候補として整理します。責任者が内容を選び、社内の現行ルールと合っているか確かめます。
訓練後には、担当者のメモを整理し、確認できたことと未確認だったことを分ける補助に使えます。AIが自然な文章にまとめても、実施していない操作や確かめていない復旧を、できたこととして補わせないようにします。
一方、災害時にAIへ避難や危険作業の可否を一任したり、復旧操作を承認なしに実行させたりする設計は避けます。AIサービス自体を利用できない場合もあるため、それを使わなければ連絡先も分からない計画にしないことが重要です。
IPAは、復旧すべき時期を考え、体制や手順を整備し、演習で確かめることを示しています。事業継続・復旧体制の整備に関する案内も参照し、文書の作成と実行の確認を分けて進めましょう。
バックアップは「ある」から「使える」へ確かめる
バックアップを取得する設定があっても、必要な記録を取り出し、仕事に使えるかは別の確認です。対象のデータに図面や添付ファイルが含まれるか、復元の手順を誰が知っているかまで整理します。
確認には、本番と分けた環境や、支援先と合意した安全な方法を使います。実際のデータを消す、稼働中の環境へ試しに上書きするといった訓練は行いません。まずは模擬データで、保存先へのアクセス、取り出し、内容の確認までを試します。
データを開けたら、件数だけでなく、代表的な記録の内容、添付資料、関連付けも見ます。表の行がそろっていても、写真の参照先が失われていれば、その業務を再開できない場合があります。
確認した日時、対象、使った控えの時点、かかった時間、実施できなかった作業を残します。一度成功したことだけで、今後のすべての停止に対応できるとは考えず、対象や仕組みが変わったときに再確認します。

小さく訓練し、次の改善を担当者まで決める
初回は、代表的な工事の模擬情報を使います。連絡先を探し、使用する図面を特定してみましょう。その後、代替記録を通常の形式へ戻す流れも試します。実際の顧客や協力会社へ訓練の連絡を送る必要はありません。
評価では、情報を探せた時間、判断者へ到達できたか、復旧後に照合できなかった項目を見ます。速さだけでなく、誤った版を使わなかったか、権限を守れたかも確認します。できなかったことは失敗を隠さず、次の改善対象にします。
訓練の指摘には、修正する人と確認期限を付けます。担当変更、連絡先変更、サービス変更があれば、計画と保管場所の案内も見直します。社内の知識を根拠と更新日で探す方法は、平常時の手順管理にも役立ちます。
建設業のBCPを使えるものにするには、経営者の判断と現場の行動を結び付ける必要があります。まず一つの業務について、止まったときの入口から復旧後の確認まで説明してみてください。Luzetraへの相談でも、現在の情報の置き場所と担当者の動きを整理するところから、準備の範囲を考えられます。

約25年間、建設・リフォーム業界に在籍。不動産業界にも精通。現在は、これまでの経験と知識を活かしつつAIを用いて業界の活性化に取り組んでいる。
